今回も読書感想です。今回読んだのはアベ・プレヴォーの『マノン・レスコー』です。小悪魔的な女性マノンに人生を狂わされたデ・クリューの話です。
正式名称は『シュバリエ・デ・クリューとマノン・レスコーの物語』といい、こちらの方がこの波乱万丈な物語に相応しいタイトルと言えます。
基本的なあらすじは美青年で家柄も良い貴族のデ・クリューが美女マノンに惚れて、詐欺に脱獄、殺人と犯罪の限りを尽くす話です。
マノンも大概です。浪費癖が激しくお金の匂いをかがされると男を乗り換える女性です。当時の高級娼婦みたいなポジションの女性だったと言えます。
2人とも大概ヤバイんですよね(笑)。つまり邦題『マノンレスコー』より2人の物語であることを強調する原題の方がふさわしいと言えるところはここにあると思います。
まず第一印象ですが、殺人まで犯したデ・クリューは本来ギロチンに掛かっても文句は言えません…。が大概お説教や、監獄的施設に入る程度で済みます。当時の上級国民のヤバさが伺えます。
反面、せいぜい結婚詐欺みたいなことしかしていないマノンは初犯の時は女性用監獄行きに、2度目は流刑(アメリカへ島流し)です。
この待遇格差が男性優位社会や、デ・クリューの上級国民っぷりが伺えます。つまり、こんな世の中でもだいぶ良くなったんだなとじみじみ思いました。
あとは金持ちで色好きなG・M親子にお咎めなしなど、かなり胸糞は悪めです。まあ彼らはデ・クリューより上級国民なので(笑)。当時の世の中上級国民ゲーすぎません?
唯一の良心の友人のティベルジュは金をむしられて、主人公のためにアメリカまで渡ってくるとか、なんていうかどうしたらそこまで尽くせるのか謎です(笑)。
ティベルジュとデ・クリューとの道徳に関する対話はこの物語の一番の見せ場の1つといえるでしょう。
本物語は過去にレビューしたデュマ・フィスの『椿姫』にも登場します。なので、それっぽい内容なのかなと読み始めでは思いました。
後日談からスタートし、語り手の主人公から実質的な主人公のデ・クリューにバトンタッチする形も同じですし、『椿姫』は確実に本作品の影響を受けていますね。
なお『椿姫』のマルグリットみたいな性格をマノンに期待するとこの期待は粉々に粉砕されます(笑)。『椿姫』のレビューはこちらからどうぞ。
女のために破滅する話は数多くあれど、群を抜く胸糞の悪さがありますね。とはいえ、当時神父だった作者が胸糞の悪い話を読ませるために作ったとは考えにくいです。
女のためにめちゃくちゃやって破滅に近い状態に行くデ・クリューを反面教師とし、お説教するティベルジュが作者の弁を代弁する作品と捉えるべきかなと僕は思います。
悪くなかったです。エンタメ的な側面もありながら、道徳とは何たるか?と考えさせられるところのある作品です。長く読み継がれているのも納得です。良作。